【クリニック監修】男性型脱毛症と遺伝|最先端の研究や新しい治療法の可能性まで解説!

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男性型脱毛症と遺伝|最先端の研究や新しい治療法の可能性まで解説!

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男性型脱毛症(AGA)の研究が進み、発症のメカニズムや遺伝との関係がはっきりしてきました。しかし一卵性双生児であっても薄毛の進行度が異なることがわかっており、喫煙などの生活習慣が関係しているという説も有力です。さらに、研究の最前線では遺伝子の働き方について従来とは異なる考え方が広まっているところです。男性型脱毛症と遺伝の関係について、基本的なところから最先端の話題までまとめてみました。まったく新しい薄毛治療薬の可能性についても最後に紹介しています。

男性型脱毛症は遺伝の影響が大きい

分子レベルでの研究により、男性の薄毛は遺伝の影響が非常に大きいことがわかっています。男性型脱毛症と遺伝の関係についてこれまでに判明しているポイントをまとめます。

薄毛と男性ホルモンの関係

毛は毛包(もうほう)と呼ばれる部分から生えてきます。毛包は多数の細胞からなり、それらの働きが複雑に絡み合いながら毛の成長や生え替わりを支えています。
なかでも毛乳頭(もうにゅうとう)細胞は毛包を制御する重要な役目を持ちます(※1)。前頭部や頭頂部の毛乳頭細胞には男性ホルモン受容体と呼ばれるタンパク質があり、これに男性ホルモンが結合すると、周囲の細胞に向けて「成長を止めろ」というシグナルが発信されます。これにより毛包が縮小(「ミニチュア化」)し、薄毛が引き起こされるのです(※2)。
前頭部や頭頂部には男性ホルモン受容体があるため薄毛になりますが、後頭部には受容体が存在しないため薄毛が進行しても最後まで髪が残ります。

男性ホルモン受容体遺伝子の個人差で薄毛に

毛乳頭細胞の中では遺伝子の情報をもとにして男性ホルモン受容体が作られています。この遺伝子には個人差があり、受容体をたくさん作るタイプとあまり作らないタイプに分かれます。受容体をたくさん作るタイプの遺伝子を毛乳頭細胞の中に持っている人は頭髪に男性ホルモンの影響を大きく受け、男性型脱毛症を発症しやすくなります(※3)。
男性ホルモン受容体が関係している男性型脱毛症は全体の8割程度にのぼると見られています(※4)。

男性型脱毛症の要因となる遺伝子は複数存在する

薄毛に影響すると考えられる遺伝子は男性ホルモン受容体の遺伝子以外にも複数見つかっており(※5)、これからも多数の遺伝子の関与が判明していく可能性があります。男性型脱毛症を発症するかどうかは、複数の遺伝子の絡み合いで決まってくる場合があるようです。

今のところ遺伝の影響は克服できないが、有効な治療法はある

遺伝的体質を変える薬というのはまだ開発されていません。しかし、男性ホルモンと受容体の働きに対抗して毛包の縮小を改善する薬(フィナステリド・デュタステリド)や、毛包の成長力を高める薬(ミノキシジル)が開発され、高い成果を出しています(※6)。
さらに、後で紹介するように今後も有効な治療薬が開発される可能性があります。

一卵性双生児だと薄毛はどうなる?

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遺伝の影響を考えるのに非常に有効なのが、一卵性双生児の研究です。一卵性の双子はほぼ同一の遺伝子を持って生まれます(遺伝子の突然変異によるわずかな違いはあります)。男性型脱毛症を発症するかどうかが遺伝子のみで決まるのであれば、一卵性双生児のほとんどのペアで発症の有無が一致するはずです。
現在までの研究によると、一致率は8割から9割とされています(※7)。大体のペアでは一致しているので確かに遺伝の影響は非常に大きいのですが、遺伝子のみで決まるとは言えない数字です。
男性型脱毛症を発症した日本人の一卵性双生児11組を調べた研究があります(※8)。それによると、11組のうち5組で発症開始時期も薄毛の進行度も異なっており、発症時期が早いほど薄毛が進行していました。飲酒や喫煙の習慣も調べられましたが、薄毛の差と習慣の違いの関係は確認できませんでした。

薄毛に関係する遺伝子以外の要因は?|エピジェネティクスの可能性

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遺伝子以外の要因としては生活習慣の影響がよくあげられますが、どのようなメカニズムで薄毛に影響するのかはわかっていません。
最近では遺伝子の働き方に関する「エピジェネティクス」という現象が注目されています。薄毛のエピジェネティクスについての研究が進めば、新しい治療薬が生まれる可能性もあります。ここではエピジェネティクスについてごく大ざっぱながらわかりやすく解説してみます。

エピジェネティクスとは?

遺伝子はDNAという長い「鎖」の上に乗っています。この鎖は「糸巻き」に巻きつくようにして小さくまとまって存在しているため、遺伝子の情報を読み取るためにはまず鎖の一部を「糸巻き」から解き放つ必要があります。
そうして自由になった鎖の部分にいろいろな分子が結合して情報の読み取りが行われ、その情報をもとにタンパク質が作られます。このようにして遺伝子からタンパク質が作られることを、「遺伝子の発現」と呼びます。
「糸巻き」にきつく巻きつけられているほど遺伝子の発現は起こりにくくなります。また、DNAの鎖には「スイッチ」のようになっている箇所があり、ここがオンの状態でないとうまく分子が結合できず、遺伝子発現が起こりません。
「糸巻き」への巻かれ方や「スイッチ」のオン・オフの状態は環境などの影響で変化することがあり、これにより遺伝子の発現が抑制されたり促進されたりします。しかもこの変化は比較的安定して持続し、子孫に「遺伝」する場合すらあることが知られています。こうした現象が「エピジェネティクス」です(※10)。

エピジェネティクスが病気の原因にも薬にもなる?

エピジェネティクスはがんや2型糖尿病などのさまざまな病気に関係していると見られています。例えば、一卵性双生児の一方だけが2型糖尿病にかかっている場合、双子の間でエピジェネティクスの状態が大きく異なっているらしいということが研究で示されています(※11)。
また、「糸巻き」や「スイッチ」の状態はDNAよりもはるかに変わりやすい(変えやすい)ため、エピジェネティクスは治療法の開発に活用できると期待されています。実際にがん治療薬の研究開発(※12)などが盛んに進められているところです。
生活習慣が病気に影響するメカニズムもエピジェネティクスで明らかになり、病気を改善したり予防したりする方法が開発されることも期待されます(※11)。

エピジェネティクスで薄毛の治療薬を創れる?

男性型脱毛症にもエピジェネティクスが関係していると見られています。例えば、後頭部の毛乳頭細胞に男性ホルモン受容体がないのは遺伝子の発現が抑制されているためらしいのです。また、エピジェネティクスの「スイッチ」を制御する分子の1つが働かなくなったマウスは薄毛になるという研究もあります(※13)。
したがって、エピジェネティクスに関係する分子をうまく制御できるようになれば男性型脱毛症の新しい治療法が生み出せる可能性があるのです。将来的には食事やサプリメントなどで薄毛を手軽に予防できるようになる日が来るかもしれません。

リファレンスリンク
※1)日本薬理学雑誌133 巻 (2009) 2 号「男性型脱毛症治療薬の研究動向」
https://www.jstage.jst.go.jp/article/fpj/
133/2/133_2_73/_pdf/-char/ja
※2)アデランス 研究開発レポート「最先端毛髪科学の研究現場から No.01 大阪大学大学院医学研究科 皮膚・毛髪再生医学寄附講座 板見智教授に聞く」
https://www.aderans.co.jp/corporate/
rd/pdf/aderans-plus01.pdf
※3)アンファー「将来のAGAになりやすい傾向と薬剤の効きやすさを遺伝子によって予測」アンドロゲンレセプターの遺伝子検査
https://www.angfa.jp/news/?p=654
※4)沢井製薬 サワイ健康推進課「薄毛に負けない!」
https://kenko.sawai.co.jp/
healthy/201904.html
※5)nature asia「nature genetics男性型脱毛症への感受性」
https://www.natureasia.com/
ja-jp/research/highlight/171
※6)日本皮膚科学会「男性型および女性型脱毛症診療ガイドライン 2017 年版」
https://www.jstage.jst.go.jp/article/
dermatol/127/13/127_2763/_pdf/-char/ja
※7)Symbiosis Clinical Research in Dermatology「Androgenetic Alopecia: a Review and Emerging Treatments Pathophysiology of Androgenetic Alopecia」
https://symbiosisonlinepublishing.com/
dermatology/dermatology64.php
※8)Dクリニック「「男性型脱毛症とエピジェネティックス:男性型脱毛症の一卵性双子11組の診療経験より」がEuropean Journal Medicineに掲載されました」
https://www.d-clinicgroup.jp/clinic/about/
authority/identical_twins/
※9)EMIRA「薄毛は治るのか? 治療現場の最前線 衝撃の原因と予防方法を第一人者に直撃」
https://emira-t.jp/special/6918/
※10)国立がん研究センター研究所「エピジェネティクスとは?」
https://www.ncc.go.jp/jp/ri/division/
epigenomics/project/010/
010/20170906143435.html
※11)日本生理人類学会誌 Vol.22,No.2  2017, 5「ゲノム人類学から見たふたご研究」
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjpa/
22/2/22_91/_pdf/-char/ja
※12)理化学研究所「「がんエピゲノム」を検出する新手法-がん治療薬のエピジェネティクス制御効果が判定可能に-」
https://www.riken.jp/press/2018/
20180808_2/index.html
※13)Indian J Dermatol Venereol Leprol 2018;84:263-8「Genetic and molecular aspects of androgenetic alopecia  Epigenetic Changes in Androgenetic Alopecia」
http://www.ijdvl.com/article.asp?issn=
0378-6323;year=2018;volume=84;issue=3;
spage=263;epage=268;aulast=Martinez-Jacobo

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