男性型脱毛症(AGA)は前頭部と頭頂部で起こることが古くから知られています(※1)。頭頂部よりも前頭部で薄毛が進行しやすいタイプやその逆のタイプなど、薄毛の進行にはいくつかのパターンがあります。この記事では薄毛の分類法を紹介し、薄毛の進み方にパターンがある理由をくわしく解説します。「薄毛のタイプによって原因や対策が異なるのではないか」という疑問をお持ちの方もいらっしゃるかもしれません。最後にこの点についても説明します。
男性型脱毛症の分類法
一般的によく使われる大まかな分類と、医療現場で診察に使われる詳細な分類を紹介します。
薄毛は大まかにM型・O型・U型・複合型に分けられる
前頭部と頭頂部の進行速度の違いにより、薄毛は大まかに4つのパターンに分けることができます。 薄毛がおもに前頭部で進み、頭頂部では進まないケースでは、おでこの生え際が「M」の字を描くように後退していくのが典型的なパターンです。逆に、頭頂部でだけ進行する場合にはつむじ周辺の髪が円盤状(「O」の形)に失われます。このM型とO型が薄毛の基本形と言えます。前頭部と頭頂部の両方で薄毛が進行する場合も多く、複合型と呼ばれます。頭頂部の薄毛は自覚しにくいため、M型と思っていたら実は複合型だったという場合もあります。複合型が進行すると前頭部と頭頂部の薄毛がつながって生え際が「U」の字を描くようになります。これをU型と呼びます。生え際全体がだいたい均等に後退していくタイプをU型と呼ぶ場合もあります。ある企業が行ったアンケート調査(※2)では、自分の薄毛について42.4%の人がM型、23.8%の人がO型、27.3%の人が複合型と見なしているという結果が出ています。
診察で用いられるノーウッド分類と高島分類
医療機関の診察では、薄毛の形状だけでなく進行度も加味して分類を行います。よく用いられるのが、ノーウッド分類(ハミルトン・ノーウッド分類)と高島分類です(※3)。
ノーウッド分類は欧米人の薄毛の特徴を反映した分類法ですが、国際的に広く用いられています。薄毛はまず額の生え際の後退から始まり、その後M型・U型や複合型のような形に分かれて進行していくと考えられているのが特徴です。
アジア人男性の場合は頭頂部が先に進行するタイプも多く見られることから、日本ではノーウッド分類にO型を加えて修正した高島分類というものが作られ、広く用いられています。
なぜ薄毛の進行にはパターンがあるのか?
男性型脱毛症がなぜ前頭部と頭頂部でだけ進行するかについては、明確な根拠が見つかっています。また、薄毛が進行しやすいかどうかは遺伝的な体質が大きく関係していることがわかっています。薄毛進行のメカニズムについて少し踏みこんで解説してみましょう。
男性型脱毛症では毛包が「ミニチュア化」
毛は毛包(もうほう)と呼ばれる部位から生えてきますが、男性型脱毛症ではこの毛包が「ミニチュア」のように縮小してしまいます。そのため毛がほとんど成長しないまま抜け替わるようになって、いわゆる「はげた」状態になるのです。
男性ホルモンと受容体の働きが薄毛を引き起こす
毛包の「ミニチュア化」を引き起こしているのはテストステロン(男性ホルモンの一種)と受容体(じゅようたい)です(※4)。
ホルモンは血液などの流れに乗って体のあちこちの細胞に移動します。そして自分にぴったり合う受容体に出会うと結合し、その細胞に変化を引き起こします。ホルモンが「鍵」、受容体は「鍵穴」だと考えるとわかりやすいでしょう。
毛包にある毛乳頭(もうにゅうとう)細胞の中にテストステロンという「鍵」が入ると、5α還元酵素という分子の働きでジヒドロテストステロン(DHT)というさらに強力なホルモンに変わります。DHTは毛乳頭細胞の中で「鍵穴」の受容体(男性ホルモン受容体)に結合し、それが引き金となって毛包の成長を抑制する物質(抑制因子)が作られます。この抑制因子の働きで毛包が縮小し、薄毛が進行するというわけです。
薄毛に関わる受容体は前頭部と頭頂部に集中
男性ホルモン受容体はすべての毛包に存在するわけではなく、分布に偏りがあります。頭皮では前頭部と頭頂部に集中しており、後頭部や側頭部には存在しません。そのため前頭部と頭頂部では薄毛が進行しやすく、後頭部や頭頂部では最後まで髪が残るのです。ちなみに、顎やすねなど体毛が濃くなりやすい箇所の毛包にも男性ホルモン受容体が存在しています。ところがこれらの箇所ではDHTと受容体はまったく逆の働きをし、毛包の成長を促す物質(成長因子)を作り出します。薄毛なのに体毛は濃いという人がよくいるのはこのためです。
受容体を作る遺伝子の個人差が薄毛を左右する
男性ホルモン受容体は遺伝子をもとにして作られます。どんな男性でも前頭部や頭頂部の毛乳頭細胞にこの遺伝子が存在しますが、わずかながら個人差があることが知られています。男性ホルモン受容体の生産に「乗り気」なタイプの遺伝子とそうでないタイプがあるのです。毛乳頭細胞にある遺伝子が「乗り気」なタイプだった場合、男性ホルモン受容体がたくさん作られ、DHTの働きで抑制因子も盛んに生み出されることになります。逆に、遺伝子が不活発なタイプだと男性ホルモン受容体も抑制因子もあまり作られません。前頭部や頭頂部にどちらのタイプの遺伝を持っているかによって薄毛になりやすいかどうかが左右されるわけです。
薄毛対策はどのパターンでも同じ!形はあまり気にしないほうがよい
「M型は遺伝要因が強くO型は生活習慣の影響が強い」といったように、進行タイプによって男性型脱毛症の原因や対策が異なるかのように解説しているサイトがありますが、医学的根拠は不明です。薄毛の根本的な原因は前頭部でも頭頂部でも同じで、遺伝的な体質です。したがって薄毛の形によって原因がはっきりわかれるということは考えられません(※6)。ただし、薄毛には遺伝以外の要因も関係しているようです(※7)。はっきりしたメカニズムはまだ不明ですが、喫煙などの生活習慣やストレスが進行に関係しているとも言われています(※6)。男性型脱毛症の対策ではM型やO型といった形そのものはあまり気にしないのが得策です。そして生活習慣の改善に努めながら、効果が確かめられている治療法(フィナステリド、デュタステリド、ミノキシジル、自毛植毛)(※3)を検討するのがよいでしょう。
リファレンスURL
※1順天堂医学37(4)(1992年)「男性型脱毛――その特性 と未来像」
https://www.jstage.jst.go.jp/article/
pjmj/37/4/37_572/_pdf/-char/ja
※2アデランス「あなたの薄毛はM・Oどっち?薄毛に悩む男性の 4 割が『M型』薄毛タイプと認識」
https://www.aderans.co.jp/mens/
newsrelease/pdf/ipRR.pdf
※3)日本皮膚科学会ガイドライン「男性型および女性型脱毛症診療ガイドライン 2017 年版」
https://www.jstage.jst.go.jp/article/
dermatol/127/13/127_2763/_pdf/-char/ja
※4)アデランス 研究開発レポート「最先端毛髪科学の研究現場から No.01 大阪大学大学院医学研究科 皮膚・毛髪再生医学寄附講座 板見智教授に聞く」
https://www.aderans.co.jp/corporate/
rd/pdf/aderans-plus01.pdf
※5)アンファー「将来のAGAになりやすい傾向と薬剤の効きやすさを遺伝子によって予測」アンドロゲンレセプターの遺伝子検査
https://www.angfa.jp/news/?p=654
※6)沢井製薬 サワイ健康推進課「薄毛に負けない!」
https://kenko.sawai.co.jp/healthy/
201904.html
※7)毛髪医学通信「『双子の男性型脱毛症報告』 男性型脱毛症には遺伝以外に環境の要因が影響する可能性が大きい」
https://www.fml.jp/society/record/
fml-128.html
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